2025/11/1記事 タイトル:分散型SNSの研究 ~組込みシステム+分散型SNS(Nostr)の優位性について考察 前回、組込みシステムに分散型SNS(Nostr)を導入するのは"あり"か?"なし"か?について考察してみました。 [前回記事へのリンク] 現在、Raspberry Pi を使ってエンドツーエンドのお試しシステムを構築中ですが、その合間でふと感じた疑問について考察してみたいと思います。 組込みシステムにおけるネットワーク通信というと、パッと思いついたのが「CAN」(Controller Area Network)やOPC UA(Open Platform Communications Unified Architecture)などリアルタイム性や高速・高信頼な通信プロトコルです。 一方で、分散型SNSのNostrプロトコルはWebSocketを使用し、そのWebSocketは主にWebアプリケーションでの利用を想定したプロトコルであるため、上記に挙げたCANやOPC UAに比べ、組込みシステムで使用するには「高速性」などの面で優位性が見出しにくいです。 そこで「高速性」以外の指標について考察し、Nostrがこれからの組込みシステムにおいて選択肢になり得るかを考えてみたいと思います。 [見出し]Nostrの優位性は「分散性」と「信頼性」 [見出し]1.異なる通信の目的とスコープ 組込みシステムにおいて、NostrプロトコルはOPC UAなどとは異なるレイヤー、異なる目的で優位性を持つことが考えられます。 プロトコル│主な目的 │通信のスコープ │求められる特性 ─────┼─────────────────┼────────────────┼─────────────── CAN │ECU間のリアルタイム制御 │デバイス内部・近接通信 │高速性、高信頼、低遅延 ─────┼─────────────────┼────────────────┼─────────────── OPC UA │産業用機器・システム間のデータ連携│ローカルネットワーク(工場内など)│高速、相互運用性、セキュリティ ─────┼─────────────────┼────────────────┼─────────────── Nostr │非中央集権的なデータ共有と認証 │インターネットを介した広域分散 │検閲耐性、改ざん耐性、柔軟性 Nostrは制御や監視というよりはデータの記録・証明・広域共有に特化しています。 例えば、CANが収集したデータをNostrに記録し、遠隔地のクライアントに分散的に共有する、というように共存が可能です。 [見出し]2.Nostrが持つ独自の優位性 低速性というハンディキャップを補って余りあるNostr独自の優位性に以下が挙げられます。 [見出し]検閲耐性と回復力(レジリエンス) 特定のサーバーに依存しないため、リレーサーバーの一つがダウンしても他のリレーに接続することでデータ共有を継続できます。 これは、クラウドサービスが停止するリスクを回避し、システムの回復力を高めると思います。 [見出し]改ざん耐性と認証基盤 全てのデータは送信元の公開鍵で署名され、誰もがその正当性を検証できます。 これは、「このセンサーデータは確かにこのデバイスからこの時刻に送信されたものだ」という非中央集権的な証明を可能にします。 これにより、特に信頼性の高いデータロギングや、データの真正性が求められるサプライチェーン管理、トレーサビリティの分野で優位になると思います。 [見出し]広域ネットワークでの低コストな接続性 WebSocketベースであるため、インターネット経由での接続が容易です。 高価な専用プロトコルやゲートウェイを必要とせず、例えばRaspberry Pi やWi-Fiモジュールから直接世界中のリレーサーバーに送信できます。 [見出し]Nostrが活きるユースケース Nostrの「低速性」が問題とならない、あるいは「分散性・信頼性」がより重要になる組込みシステムのユースケースを考えてみます。 [見出し]1.環境・農業モニタリング(低頻度データ) 温度・湿度・水位などのデータを数分~数時間に一度送信するなどの場合、WebSocketの遅延は問題になりません。 データの改ざん耐性と永続性が重要になるケースです。 [見出し]2.分散型エネルギー資源の認証 太陽光発電の発電量データなどをNostrで共有し、そのデータの信頼性(改ざんされていないこと)を証明することで、電力取引やカーボンクレジットの発行などに利用できると思います。 [見出し]3.機器のライフサイクル証明 製造時の品質検査結果、稼働時間、メンテナンス履歴といった機器の重要イベントをNostrに記録します。 これにより、第三者に対しても透明で、かつベンダーロックインされないデータの永続的な証明書とすることができます。 [見出し]まとめ:IoTデータ主権のシフト 今回、組込みシステムにおけるCANやOPC UAといった高速通信プロトコルと比較し、Nostrの優位性が「通信速度」ではなく「データの信頼性」と「分散性」にあることを考察しました。 「検閲耐性」「改ざん耐性」「広域ネットワークでの低コストな接続性」というNostrの特性は、IoTデバイスが生み出すデータの主権を中央集権的なプラットフォームからデバイス自身へとシフトさせる可能性があります。 今、私がRaspberry Piで構築中のエンドツーエンドシステムは、単なるプロトコルのお試しに留まらず、Nostrプロトコルを用いることで実現される「自律分散型IoT」の概念を具現化する一歩になると思います。 データを署名し、誰にも依存しないリレーに分散記録するこの仕組みは、信頼性と透明性が求められるこれからの産業・社会インフラにおいて、重要な選択肢の一つになる可能性があるかもしれません。 なので、引き続きこのテーマを探求していきたいと思います。